大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和家庭裁判所熊谷支部 昭和53年(少)269号 決定 1978年3月13日

少年 T・Y(昭三六・四・二一生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第一  A(当二一年)、B(当二〇年)、C(当一九年)、D(当一八年)と共謀のうえ

一  E(昭和三三年四月四日生)の運転する普通乗用自動車が、A運転の普通乗用自動車に衝突したことに因縁をつけ、昭和五三年一月一七日午後一〇時ころ、児玉郡○○村○○○○×、×××番地のゴルフ場造成地に右Eを連れ込み、同所において、右Eに対し、Aにおいて右Eの顔面を手拳で殴打し、Bにおいて右Eの顔面を手拳で殴打したうえ、その胸部及び腹部を膝で蹴り、さらに少年において右Eの腹部及び睾丸を膝で蹴るなどして暴行を加え、畏怖した同人に現金二〇万円を支払わせることを約束させ、これを取立てに向かつたが、同所から約四○○メートル離れた同村○○○○○○○○○××××番地の同ゴルフ場造成地内の残土運搬用道路において、右Eにかわつて運転していたBが、運転を誤り、普通乗用自動車の右側車輪を道路脇の溝に落とし、これを引き上げることができなくなり、前記金員を取立てに行けなくなつたことに再び憤激し、同所において、同人に対し、Aにおいて所携のヌンチャクで右Eの背部等を殴打し、Bにおいて右Eの顔面を手拳で殴打したうえ、その腹部等を膝で蹴り、少年において右Eの腹部等を膝で蹴つたうえ、その顔面及び腹部を手拳で殴打するという暴行を加えて同人を抵抗不能の状態に陥れ、A、B及びDの三名で右Eの着衣を剥ぎ取つて同人を全裸にしてA運転の普通乗用自動車の後部トランクに右Eを押し込み、更に右Eが運転していた普通乗用自動車内から、別紙物件一覧表(編略)記載のとおり、同人所有または管理にかかるカメラ等合計二一点(購入価格合計一四万三九四〇円相当)を強取し、その犯跡を隠蔽するため、同人を殺害しようと決意し、同所から約一三・五キロメートル離れた同村○○○○○○○××××番地の×先の○○湖にかかつている○○○橋中央付近に至り、同所において、A、B、C並びに少年において、抵抗できないまま同橋上に横臥する右Eの頭部、肩部、背部、臀部及び大腿部を所携のヌンチャクで乱打したうえ、同日午後一一時四〇分ころ、殺意をもつて、仮死状態になつた同人を同所から約三〇メートル下の○○湖に突き落とし、そのころ、同人を溺死させて殺害した

二  前記犯行を隠蔽するため、Eを殺害すると共に同人が運転していたG所有の普通乗用自動車(登録番号○○××○××××)を焼燬しようと決意し、前同日午後一〇時五〇分ころ、前記残土運搬用道路において、Bにおいて、H所有の杉林から約五メートルしか離れていない右乗用車の後部座席に置いた右Eの衣類に所携のライターで点火し、右自動車に放火して焼燬させ、そのまま放置すれば右杉林に延焼すべき状態を生じさせて公共の危険を生じさせた。

第二  別紙犯罪一覧表(編略)記載のとおり、A、B、C、D等と共謀して、昭和五二年一一月末ころから昭和五三年一月二一日までの間、前後四回にわたり、大里郡○○町○○××××番地煙草商I方店舗ほか三ヶ所において、同人ほか三名の所有又は管理にかかる煙草等三二二点(時価合計四万三四八〇円相当)を窃取したものである。

(罰条)

第一の一の事実につき 刑法六〇条、二四〇条後段

第一の二の事実につき 刑法六〇条、一一〇条一項

第二の各事実につき 刑法六〇条、二三五条

(処遇の理由)

一  本件犯行は、自動車が衝突したことに因縁をつけ、シンナー・酒等により感覚が鈍麻したなかで、少年ら五名が、一九歳の被害者に対して、三ヶ所において殴る・蹴る・ヌンチャクで乱打する等の徹底した暴行を加えて抵抗不能の状態に陥れたうえ、○○湖にかかつている○○○橋の欄干の間から落とし、なおも橋の脇のパイプにしがみついた被害者を成人共犯者のAが蹴落として溺死させたというものであり、尊い生命を極めて残虐な方法で嬲り殺しにしたという事案である。被害者は、車に対する関心は強いが、違反・事故等の前科前歴なく、社会生活は真面目に送つていたおとなしい青年であり、本件犯行の際にも一貫して抵抗をしていない(本件のきつかけとなつた自動車同士の衝突にしても、被害者に落度があつたわけではなく、むしろAの方に非があつたものである)。被害者は、一人息子であり、被害者の両親の悲しみ・憤りは極めて大きく、加害者らに対して最も重い処罰を願つている。又、少年らのグループのこれまでの乱暴狼藉に苦しめられていた強盗致傷・恐喝・窃盗・傷害等の未送致余罪の被害者並びに、少年らのたまり場となつていたDのアパートの近隣居住者、ひいては暴走族の傍若無人の振舞いに対する一般社会感情等も軽視することはできないものがある。

二  本件において、少年は、A、Bと共に被害者に対して積極的に暴行を加えているのみならず、Cと共に強取行為を実行したもので、少年の加功の程度は重いというべきであるうえ、右暴行も無抵抗の被害者の腹部及び睾丸を膝で蹴り、顔面及び腹部を手拳で強打し、更に全裸の被害者の背部等をヌンチャクで乱打したというのであつて、その行為は、成人及び年長少年の共犯者と何ら異なるところがなく残虐である。

三  少年は、父T・Jと母T・Jの長男として出生し、昭和五二年三月肩書本籍地の中学校を卒業し、同年四月○○県総合高等職業訓練校に入学したが、学内で恐喝事件を起こして同年七月退学し、土工を一ヶ月位した後、同年九月末ころから一一月初旬ころまでの間、Dの紹介で露店商の手伝いをし、その間にBと知合い、更に同人を通じてA、Cらと知合うようになつた。そして、同年一一月末ころから、右A、B、C、Dらと暴走族「○○」を結成しようという話になり、一二月中に何回か集会の計画を立てて友人に呼びかけたが、暴力団○○組から上納金を納めるようにと声をかけられたり、A、Bが同組事務所に呼ばれて乱暴されたりしたこともあつて、人が集まらず、結局失敗に終わつた。そこで、前記四名と少年とで寄り集まつてツーリングに行つたり、シンナー・覚せい剤などを乱用したりの徒遊生活を送つており、殊に昭和五三年一月一一日にDがアパートを借りて同棲生活を始めると、同所が少年らのたまり場となり、夜遅くまで騒いで近所の人の迷惑となつていた。又、未送致ではあるが、昭和五二年九月ころから一一月ころにかけて、B、Dなどと恐喝事件・傷害事件などを数件起こしており、更に、少年自身、左腕の静脈に覚せい剤の注射のためと思われるしこりがある。

四  浦和少年鑑別所の鑑別結果によると、少年は、IQ=九三の普通知であり、性格は、過活動的で統制力に欠け、深みに乏しく、自分本位で、規制を嫌い、いつも刺激を求めているタイプであり、親などの指導を受入れようとする気持も少なく、自分のあり方をふり返つたり、物事を真剣に考えることをいつも避け、その場その場の享楽を求めて成り行きまかせの生活を送つていたこと、そのような問題点の背景には、家庭の教育・躾の不足が大きく影響していること、本件犯行時少年自身、「嫌だ、被害者が可愛いそうだ」等の気持はなく、とにかく「共犯者達に良い所を見せたい、認められたいから派手にやる」といつた承認獲得への欲求が相当強く働き、その場の狂気じみた嗜虐的雰囲気や少年の情緒面での貧困さ、粗暴性が少年の行動に一層拍車をかけたことなどが認められる。

五  (一) 前記一、二の事情並びに共犯者殊に終始積極的な加功をしていなかつたDとの均衡等を考えると、少年は、一六年一一月(犯行時一六年九月)の少年であるとはいえ、なお検察官に送致したうえ、刑事裁判を受けさせることにより、公益の代表者たる検察官の弾効にさらし、自らの犯した行為の意味を厳しく考えさせることが必要であるということも充分に考えられるところである。

(二) しかしながら、本件犯行は、責任能力に影響するほどではないにしてもシンナーを三時間位吸引して感覚が麻痺した中で行われているものであり、少年の加担した役割は、前記二の如くかなり重大ではあるとはいうものの、成人二名(A・B)の強力な方向づけの下に、兄貴分の両名に良い所を見せたいという気持で雷同・同調したものであつて、むしろその点にこそ中卒後一年以内の少年の人格の未熟性をみることができるといえなくもない。又、少年は、道路交通法違反事件(昭和五二年一二月一三日午前一時四五分ころ普通乗用車を無免許運転したというもの)が、前橋家裁高崎支部に係属中であるが(本件事件後の一月二四日が最初の調査呼出日であつた)、その非行が、始めての家裁係属であり、従つて、本件による調査・審判が少年にとつては、全く始めての経験であり、家庭裁判所の保護的措置すら受けたことがないものである。右は、少年の非行性がここ半年位の間に急速に深化したためであるが、少年の未熟な人格を保護処分によつて矯正することが可能であることの一つの証左でもある。そして、このような未成熟な少年を長期間刑事法廷に立たせることや、刑罰を加えることによる悪影響、徹底した個別処遇を加えるためには、少年刑務所より少年院の方が適切であることも考慮しなければならない重要な事情である。又、本件加害者の親族らが集まつて、成人共犯者のBの親戚の者と、被害者の親戚の者との間に入つて貰い、被害者の両親との間に示談交渉が開始されており、最近になつて何回か話合いの機会が設けられているようである。

(三) 以上の諸事情を考えて、「少年に矯正可能性があつても、罪質・情状に照らし刑事処分が相当であるという場合もある」ということを考えつつも、なお、本少年には少年院送致が相当であると認め、主文通りの決定をした次第である。

(四) なお、本決定は、少年にとつては、「少年院で済んだ」という安易な構えを抱かせるおそれもあり、従つて、本少年を少年院に収容するにあたつては、強力な導入時教育と信頼関係の強い個別的な援助者が付いたうえで、長期的・系統的な教育が殊に必要であると考えられる。

六  従つて、少年を少年院に収容して一貫した専門的矯正教育に委ねることとし、その少年院としては、少年の年齢・非行及び問題性の特質等から、中等少年院が相当であると思料される。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を適用して、主文のとおり決定し、なお、少年の処遇に関し、少年院に対し、少年審判規則三八条二項を適用して、前記五(四)のとおり勧告する。

(裁判官 雨宮則夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例